東京都に伝わる怪異。
伝承・逸話
東京都
杉並区
薬缶坂と呼ばれる坂があり、そこでは薬缶が転がってくることがあったそうです。
(一)藥罐阪 大字上荻窪字本村に俗稱藥罐阪と呼べる傾斜路あり、昔雨の夜毎に阪の中程に藥罐の轉がり居れる奇怪事ありて、この名を得たるよし。雨の深夜など、今も時として藥罐出づるなど云ふものあり。
『東京府豐多摩郡誌』: 993ページ 東京府豐多摩郡役所 1916
ヤカンザカ 東京の近くにも、藥罐阪といふ氣味の惡い處があつた。夜分獨り通ると藥罐が轉がり出すなどゝ謂つて居た(豐多摩郡誌)。
『民間傳承』第三卷・第十二號: 12ページ「妖恠名彙(三)」 柳田國男 民間傳承の會 1938
【底本】『民間伝承』第一巻 民間伝承の会 編 国書刊行会 1972
雨の降る夜のこと。ある人が八丁通りで酒を飲み、家に帰ろうと坂を下っていると、道の真ん中に赤く焼けた大きな薬缶が落ちていました。その人が薬缶を蹴飛ばすと、薬缶は転がっていきました。それからもこの坂ではたくさんの人が焼けた薬缶を見たそうで、やがて薬缶坂と呼ばれるようになったそうです
また、薬缶坂は薬缶ではなく野豻(野狐)に由来するもので、坂で狐が悪さをすることからの命名だともいわれています。