高知県、徳島県に伝わる妖怪。
伝承・逸話
高知県
長岡郡
伐木に打たれて死んでしまった樵の霊。山中で「行くぞう行くぞう」という掛け声を発し、大木が倒れる音を響かせますが、現場に行っても何事もありません。
フルソマ 土佐長岡郡の山中で、古杣といふのは伐木に打たれて死んだ者の靈だといふ。深山で日中も此聲を聽くことがある。始めに「行くぞう/\」と呼ぶ聲が山に鳴り渡り、やがてばり/\と樹の折れる響。ざアんどオンと大木の倒れる音がする。行つて見れば何の事も無い(郷三卷四號)。
『民間傳承』第三卷・第十一號: 12ページ「妖恠名彙(二)」 柳田國男 民間傳承の會 1938
【底本】『民間伝承』第一巻 民間伝承の会 編 国書刊行会 1972
八幡郡
文化年間(1804年~1818年)に森弥市右衛門という人が語った話が『土佐海鈔』などにあります。
夜、官舎にいたときに近くの山から大木を伐って倒す音が聞こえてきました。翌日、人を見に行かせましたが、伐採の痕跡はありませんでした。倒した木に打たれて死んだ杣人の亡霊の仕業だそうです。
香美郡槙山村
桑川山には次のような話があります。
槙山川の上流に大影トドロという淵がありました。ここには山の神の化身である蛇が棲んでいて、淵の畔には周囲が4丈(およそ12メートル)ある槻の木が生えていました。
あるとき、7人の杣人がこの木を伐り倒そうとしたのですが、不思議なことに、翌日になると伐りつけた部分が元通りになってしまいました。いくら伐ろうとしても翌日には元に戻ってしまい、7日が過ぎても木を倒せません。そうして迎えた8日目の朝、杣人の1人が、伐った屑を焼いてしまおうと提案しました。木の屑をすべて焼いて捨ててみると、それからさらに7日目を迎えた日に、とうとう槻の木を伐り倒すことができました。
しかし、ここから異変が起こります。7人の杣人のうち、最初にこの槻の木を伐ろうと言った者が、突然正気を失ってしまったのです。ずっと泣き続けたり、舞い続けたりして、3日目には死んでしまいました。そして他の6人も、やはり同じようにして命を落としました。
それからというもの、桑川山では誰もいないはずなのに木が伐られて倒れる音がしたり、喚き声が聞こえたりするようになりました。村人たちはそれを古杣と呼び、この山を恐れるようになったそうです。
室戸市
野根山でいうフルソマは、山小屋を揺することもあるそうです。
山の街道沿いに旅人のための粗末な小屋があったのですが、夜になると、風など吹いていないのに小屋全体が揺れたため、ゆすり小屋と呼ばれるようになりました。野根山のフルソマが旅人と力比べをしたくて小屋を揺らすのだといわれていて、もしも揺れ始めたら、柱を押さえて揺れを止めないと朝までずっと揺れ続けてしまいます。