青森県、新潟県、愛知県、福岡県に伝わる妖怪。
概要
夜道を歩く人に砂を撒きかける狸。
スナマキダヌキ 砂撒狸は佐渡のものが著名であるが、越後にも津輕に又備中阿哲郡にも、砂まきといふ怪物が居るといひ(郡誌)、越後のは狸とも又鼬の所屬ともいふ(三條南鄕談)。筑後久留米の市中、又三井郡宮陣村などでは佐渡と同じに砂撒狸と呼んで居る。利根川中流の或堤防の樹でも、狸が川砂を身にまぶして登つて居り、人が通ると身を振つて砂を落したといふ話が殘つて居る(たぬき)。
『民間傳承』第三卷・第十一號: 12ページ「妖恠名彙(二)」 柳田國男 民間傳承の會 1938
【底本】『民間伝承』第一巻 民間伝承の会 編 国書刊行会 1972
狸が砂を撒くという逸話は各地に流布していたようです。
三、砂まき。夜間岸下又は木の下を通ると、頭から砂を振りかけられる話がある。これも別段不思議のことでない。狸が砂に轉つて毛に砂を含ませ、人が通ると、身振ひして上から砂を打懸けるのである。狸は太い曲つた木などには、よく登るものである。
『狸考』: 34ページ 佐藤隆三 鄕土硏究社 1934
六 砂を振りかける
狸は人を嚇す場合に、尻尾で人の頭を撫でたり、後から砂を振りかけると謂ふ。鳳來寺道中の、追分を出離れて分垂橋の袂を通ると、狸が尻尾で頭を撫でると專ら言うた。それが或は事實であつたかと此の頃になつて思ふ事がある。橋の袂に赤松が五六本立つて居て、中に一本道の上へ幹の差出たのがあつた。もう三十年も前であるが、村の某の狩人が暮方通りかゝると、犬が上を向いて頻りに吠え立てる。もう夕方が近いので、其まゝ通り過ぎようとしたが、犬の吠え方が劇しいので上を仰ぐと、横ざまになつた幹に、狸が一匹上つて居たさうである。直ぐ撃殺して提げて來たが、全く思ひ掛けぬ事だつたと語つて居た。
八名郡大野から遠江へ拔ける途中の、須山の四十四曲りの坂へは、狸が出て通る人に砂を振りかけると言うた。それで夜分など滅多に通る者もなかつたさうである。或時大野の者が、須山から日を暮してこの四十四曲りにかゝると、後から少しづつ砂を振りかけるものがある。初めは左程氣にもしなかつたが段々薄氣味惡くなつて、足を速めると尙盛にかける、果はおそろしくなつて、どんどん駈け出すと、駈ける程益々振りかける。夢中で坂を駈け崩れて來て、途中の人家へ飛込んださうである。後になつて考へると、自分の穿いて居た草履が跳ねる砂だつた事が判り、大笑したさうである。然しこんな話は別として、四十四曲りの或個所では、現に小石混りの砂を降りかけられた者が確かにあつたと言ふ。又某の修驗者は、その處を通り狸に訛かされて、一晩中山の中をうろついて、須山の村で借りた提灯は骨ばかりになり、自分の着物も殆ど滅茶々々に引裂いて、體中を茨掻きにして朝になつて歸つた事があつたと言ふ。修驗者を訛かす程の狸なら、砂をかける位は朝飯前の仕事だつたかも知れぬのである。
『猪鹿狸』: 168-170ページ 早川孝太郎 文一路社 1942
伝承・逸話
新潟県
佐渡郡佐和田町
佐渡へ流された順徳上皇には二宮様(忠子内親王)という娘がいて、時折、真野の上皇のもとを訪ねていました。
この頃、妙照寺にはとても信心深い狸がいました。狸は二宮様が上皇を訪ねる前の日になると、砂を撒いて通り道を清めたので、道沿いにいる人たちは狸の撒いた砂を見て、二宮様がいらっしゃることを事前に知ったそうです。