兵庫県、長野県に伝わる妖怪。
伝承・逸話
兵庫県
加東郡
群れをなす旅犬から守ってくれるという犬。
家まで送ってくれたお礼にと握飯や草鞋を与えると、送り犬は飯を食い、草鞋をくわえて帰っていったそうです。
オクリイヌ 又送狼ともいふも同じである。是に關する話は全國に充ち、その種類が三つ四つを出でない。狼に二種あつて、旅犬は群を爲して恐ろしく、送犬はそれを防衞してくれるといふやうに說くものと、轉べば食はうと思つて踉いて來るといふのとの中間に幸ひに轉ばずに家まで歸り着くと、送つて貰つた御禮に草鞋片足と握飯一つを投げて與へると、飯を喰ひ草鞋を口にくはへて還つて行つたなどゝいふ話もある(播磨加東)。轉んでも「先づ一服」と休むやうな掛聲をすればそれでも食はうとしない。つまり害意よりも好意の方が、まだ若干は多いやうに想像せられて居るのである。
『民間傳承』第三卷・第十一號: 12ページ「妖恠名彙(二)」 柳田國男 民間傳承の會 1938
【底本】『民間伝承』第一巻 民間伝承の会 編 国書刊行会 1972
長野県
小県郡
『小県郡民譚集』にある話。
塩田へ嫁に来た女が臨月になり、1人で里方に帰ろうとしていたのですが、その道中で産気づいてしまい、山の中で赤子を産みました。
そのうちに夜になって、女のそばには何匹もの送り犬が集まってきました。女は恐れ、「おれを食うなら食ってしまってくれろ」と言いましたが、送り犬は女を襲おうとしません。それどころか、狼から守ってくれているかのようでした。
やがて2匹の送り犬が抜け出しました。2匹は女の亭主が暮らす家まで行って、なんと亭主を女のいるところへ引っ張って連れて来てくれたのです。そのおかげで女と赤子は無事に亭主に見つけてもらうことができました。亭主は家に戻ると、赤飯を送り犬にふるまったそうです。
南佐久郡小海町
この地では、山犬には送り犬と迎え犬がいるとされています。
送り犬は人を守ってくれるものですが、迎え犬は高所で待ち、人を襲うのだそうです。
人を守ってくれるという送り犬の性質は、狼信仰との関連を思わせるね。