枕返し
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【まくらがえし】
日本各地に伝わる怪異。
枕返しの概要
朝、目が覚めると、頭の下に置いてあったはずの枕が別の位置にある。眠っている間に妖怪が枕を動かすのだという。
枕は夢の中へ移動するための呪具であって、睡眠時に夢を見ているのは魂が肉体から出て別の世界に行っている状態だとされる。寝ているうちに枕を動かすと、魂が肉体に帰れなくなってしまうと考えられていた。枕返しの背景にはこうした枕に関する俗信があるのだろう。
枕返しの伝承・逸話
岩手県
座敷わらしが枕返しするという。
(七)鱒沢村字山岸の某家に、座敷の床の間の前から畳一畳去って寝ないと、夜半にワラシが来て揺り起し、また体を上から押付けたり、枕返しをしたり、とても寝させぬ処がある。もちろんそれはザシキワラシだということである。(遠野町の友人俵田浩君の話、これは七、八年前に聞く。)
『奥州のザシキワラシの話』 佐々木喜善 玄文社 1920
【底本】『遠野のザシキワラシとオシラサマ』: 13ページ 佐々木喜善 宝文館出版 1974
(四二)九戸郡侍浜村の南侍浜に、九慈という土地草分の旧家がある。所の豪族だということである。この家の旧座敷と新座敷との間に、極めて黒い柱があるが、この柱の方に枕をして寝ると、枕返しにおうてとても眠られぬということである。この家の古いことは新座敷といっても、二百年も前の建物で、やっぱり黒く光っておるというのでもわかる。(遠野町牧野氏話。大正八年七月十八日、土淵の小学校で聞く。)
『奥州のザシキワラシの話』 佐々木喜善 玄文社 1920
【底本】『遠野のザシキワラシとオシラサマ』: 40ページ 佐々木喜善 宝文館出版 1974
(六)東磐井郡大原町の在、興田村中川の奥にある旧家、懸田卓治という人の家にも、ザシキワラシがおったそうである。来客などが座敷に寝ていると、枕返しをやって、東向が西枕になっていたりする。又座敷の中を、妙な声で鳴廻ったり、天井板に砂でも撒散らすような音を、させることもあったという。
この家のザシキワラシは、散切髪の皿頭で、五、六歳位の子供のようであった。形は河童に似ていたともいう。例の狢などが化けたものだろうという説もある。
又大原町の、旧藩時代の代官屋敷にもいたというが、前と同じ物かどうか分らぬ。(大原町、鈴木文彦氏報。大正八年一月二十八日附。)
『奥州のザシキワラシの話』 佐々木喜善 玄文社 1920
【底本】『遠野のザシキワラシとオシラサマ』: 61-62ページ 佐々木喜善 宝文館出版 1974
栃木県
下都賀郡大平町の大中寺に伝わる七不思議の一つに「枕返しの間」がある。
ここで寝ると必ず枕が逆になるという。また、足を本尊の方に向けて寝た者は枕を返されるともいう。
静岡県
周智郡奥山村に伝わる。
枕小僧という妖怪が枕を返すという。
和歌山県
日高郡龍神村小又川に伝わる。
昔、七人の杣人が檜の大木を切り倒した。夜になって七人が眠っていると、小坊主が出てきて、彼らの枕を一つずつひっくり返した。翌朝、七人はみんな死んでしまっていた。
あるいは、八人の杣人が檜を切り、そのうち七人が枕を返されて死亡。経文を唱えていた一人だけが助かったとする話もある。
これは檜の精の仕業だという。
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『画図百鬼夜行』前篇 陽「反枕」 鳥山石燕 1776
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主な参考資料
[文献]
『遠野のザシキワラシとオシラサマ』: 13、40、61-62ページ 佐々木喜善 著、山下久男 監修、山田野理夫 編集 宝文館出版 1974
『鳥山石燕 画図百鬼夜行』: 66ページ 高田衛 監修、稲田篤信 田中直日 編 国書刊行会 1992
『妖怪事典』: 310-311ページ 村上健司 毎日新聞社 2000
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